会員からの便り

大同特殊鋼株式会社
技術開発研究所 特殊鋼研究部
構造用鋼基盤技術研究チーム長
羽生田 智紀
昭和59年卒業(第43回)

ミクロの桃源郷から

 東山を離れて18年が経ちました。入社以来変わらず,名古屋にある鉄鋼会社の研究所にて自動車用鋼の開発に従事しています。社会人生活の折り返し点にいるということを,時間的な意味でも仕事の中身でも感じるこの頃です。学生時代から現在までを振り返ってみるのも後半戦のエネルギーになるかもしれません。
 3年間在席した当時の応用力学講座では金属疲労現象を利用した応力測定法の研究をさせていただきました。材料を均質な連続体として扱うことが多い機械工学では珍しく,顕微鏡を見る頻度の高い研究室でした。この経験がなければ材料にロマンを求めることもなかったと思います。鉄冷えの時代に鉄鋼メーカーに入社した機械系ということで,入社当初は「なぜこの業界を選んだのか」とよく問われ,「ブラックボックスを覗くのが好きだから」と答えていました。
 入社してみると,材料の開発には意外に時間がかかることもわかり,学生時代に抱いていた錬金術のような甘さは吹き飛ばされましたが,機械と材料とプロセスのハーモニーという新たな魅力を見つけることができました。この業界では光学顕微鏡で観察される金属組織のことを略して「ミクロ」と呼びます。「ミクロはどうなっとるか」が合言葉のように飛び交います。組織制御だの結晶粒の超微細化だのと肉眼では見えない話題ばかりですが,そこがロマンチックだと今でも思いますから,「ミクロ」が性に合っているんでしょう。
 自動車の駆動系部品に使われる特殊鋼を中心に開発してきましたが,おもしろいことに材料開発でお世話になる自動車会社の材料技術部門の方は,お隣の共晶会(材料系同窓会)の方々でした。この方々はきっと私とは逆に,学生時代に学んだことの社会的な展開の方に興味を持ったのだと思います。共通点は分野を跨いだということでしょうか。
 ミクロの桃源郷に迷い込んで18年。いつの間にか時代はミクロからナノへ移りましたが,私はまだミクロの世界から機械工学を見ています。そろそろナノへ移りたいところですが,部下の指導やら何やらでマクロな(?)方向に引っ張られています。

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