停年・退職の先生のお言葉

菊山 功嗣
昭和39年卒業(第23回)

退官してから感じること

 大学を3月に定年退職して、早5ヶ月になります。やっとフリーな身になれると、不安交じりで期待していましたが、退職後の生活は期待どおりにいっていません。退職前に描いていた余暇利用として、ボケ防止と頭の整理に、もう一度ゆっくりと在職中に読み残した名著を読むこと、近くの山にハイキングに出かけることなどをリストアップしていましたが、半年も経つのに全くできていません。退職前から続けていた農作業も、かえって今年のほうが畑は荒れ放題、収穫も減っているようです。先輩諸氏や同級生からは、かえって定年後のほうが忙しい、と聞かされていたのが実感できました。

 いろいろ考えてみると、在職中はその日の主な仕事がスケジュールにそって進行し、仕事のメリハリがある。手間のかかる仕事は、研究室のスタッフ、大学院生に任せたり、手伝ってもらえたこと。仕事の内容が講義、会議、研究打ち合わせなどに限られていたことなどが挙げられます。

 しかし現実は趣味の範囲を増やそうとすればするほど未知の仕事が増え、自分ひとりでやるためきわめて非能率で、その上脳の働きが柔軟性を失っているためではないかと考えられます。

 今では週に3日出かける非常勤講師の仕事の途中の車中での読書が大きな楽しみです。先日読んだ“現代人の働きすぎ”がテーマの岩波新書では、現在日本やアメリカでは労働時間が2極化し、企業や大学での責任の増加と高収入との引き換えに、この層で労働時間が増え、極端な場合、携帯、パソコンの普及で24時間勤務体制にあると指摘されています。

 大学生活を離れてみれば、若いときに土日返上で研究に没頭したことは肯定できても、その後、会議や、各種委員会の資料作成、見通しのつかない研究助成申請などに多くの時間を費やしたことが無駄であったように思われます。これからの大学には、このような無駄を少なくし、諸先生方が研究と教育にもっと時間が割けるように、大学システムとしても個人としても努力されることを期待します。

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