学内近況
若子 敦弘
昭和38年卒業(第22回)
4年間(H12〜15年度)「名古屋大学運営諮問会議委員」,更にH16年度からの「産学官連携コーディネーター」の立場から,学内近況を書かさせてもらいます。
前置き:平成16年4月からの「国立大学法人」化前の名古屋大学改革について
名古屋大学は平成12年2月「学術憲章」−教育・研究・社会貢献−を制定し,改革の方向性を学内外に明らかにしました。「教養教育院」「高等研究院」「産学官連携推進本部」等の組織改革を進め,平成14年10月「全学同窓会」(新制大学となって約65年・会員数10万人)も設立されました。
- 「教育・研究」を評価した象徴的トピックス・事例を一つずつ紹介します。
1)大学院教育について
野依良治名大特別教授は以下のように論評されておられます(H17.2.25日経)。
教育水準の欧米との差は歴然。相撲でいえば三役と十両・幕下位の差。…… 過度に専門化・細分化した研究をするので,教育効果が全く不十分。…… 院生の数が増え,質は低下。加えて基礎的教育をせずに,研究の手伝いをやらせるので,社会が望む基礎学力を持った院生が育つはずがない。
参考:平成17年入学生,学部2,242人,大学院2,314人(cf. 1991年文科省「大学院重点化政策」)
“教育の質の評価と改善(後述)が急がれる”と思います
2)研究・産学官連携について
文科省は「スーパー産学官連携本部」選定(H17年7月)において,以下,強調しています。
○我国企業の研究費の支出先(2003年度):国内大学834億円,海外1,985億円
7割が海外に流出し,「知の空洞化」が懸念される。
○大学は企業ニーズの把握や企業への提案能力等に欠ける。その対策として,
@学内の研究リソースの結集による組織的共同研究体制の確立。
A海外主要大学と伍した産学官連携体制の構築…… etc.
@は特に重要と思います。従来の「集合体」から「総合大学としての組織体」への脱皮が喫緊の課題と考えます。「21世紀COE(14件)」や名大内「医工連携」及び名市大・名工大/愛知県・名古屋市との「医工連携」等組織的連携が進みつつあり,その種々の成果が期待されます。又,Aに関連して云えば,当地域の「産学官連携」はまさにバラバラで,「シーズとニーズのマッチング」は起こり得べくもない状態と言っても過言ではないでしょう。
私見が許されれば,“産・学・官各々の情報・課題・価値観等を共有し,改革策を追求する「交流の場」造り,即ち「当地域における本格的な産学官連携機構」構築が急がれるし,そのための大学発提言活動が急がれる”と大学に提言し,活動しています。
- 法人化の狙いは「自主性を重んじ,大学の個性を輝かすこと」とされ,法人化に当たって,各大学は「中期目標・中期計画」を策定し,文科省へ「目標」として登録され,評価されていきます。名古屋大学の「中期目標・中期計画」の中で,「産学官連携−同窓会活動」に関係する主な箇所を以下に列記します。
@〈教育の質の評価と改善〉「在学生及び卒業生に教育満足度調査を定期的に実施し,教授・学習の質の見直しと改善に役立てる。」
A〈社会連携推進体制の強化〉「全学並びに部局同窓会の強化を図り,同窓会を媒介とした社会との連携を進める。」
B〈国際協力・交流拠点の形成と事業活動〉「国際学術コンソーシアム(AC21)により,国際フォーラム,専門分野ワークショップ等を国内外で定期的に開催する。…… 国際的な産学連携を推進する。」
C〈外部研究資金の確保〉「企業等との共同研究を促進し,企業等からの研究資金の増加をはかる。」etc.
理念たる「学術憲章」,そのアクションプランとしての「中期目標・中期計画」なのですが,問題なのは“組織としての十分な議論と合意の元に策定され,実行されていないこと,更に重点化・優先度をつけた実行力に欠けることです”。大学に苦言も呈していますが,「東山会」で@始めませんか!?
- 下記の「ミッション」実行に当たっても,“「同窓会」が社会との橋渡し役を担う時代にきている”と想っています。“機械系産業が中心の当地域の産学官連携における「東山会の果たすべき役割は重且つ大である」”と「東山会」幹事会等でも発言させてもらっています。
皆さんは「母校について」「東山会について」どう感じ,考えておられるでしょうか。皆さんのご理解と,「ユーザーの視点」からの大学への提言等,「東山会」活性化改革への積極的参画をお願い申し上げ,学内近況とさせていただきます。
以上
参考:名古屋大学の中期目標
(前文)大学の基本的な目標(名古屋大学のミッションとヴィジョン)
ミッション
- 人文・社会・自然の学問の壁を越えた研究のコミュニティを創出し,世界屈指の知的成果を生み出す。
- 基幹的総合大学にふさわしい学術と文化の薫り高きキャンパスを実現し豊かな人間性を持つ,勇気ある知識人の育成に努める。
- 先端的および多面的な学術的研究と,国内外で指導的役割を果たしうる人材の養成を通じて,地域および産業の発展に貢献する。
- 国際的な学術連携および留学生教育の一層の充実を図り,世界とりわけアジア諸国との交流に貢献する。
ヴィジョン
名古屋大学は,20年を長期目標の期間として,研究と教育の創造的な活動を通じて,世界屈指の知的成果の創成と勇気ある知識人を育成することを目指す。