停年・退職の先生のお言葉

細江 繁幸 先生

平成18年3月機械理工学専攻電子機械工学分野を定年退職

現在は理化学研究所バイオミメティックコントロール研究センター (名古屋市守山区下志段味字穴ヶ洞2271-130)に勤務中

 大学を卒業して以来ずっと名古屋大学に在勤しこの間実に多くの方々の世話になりました.特に最後の10数年を過ごさせていただいた機械系教室の先生方,職員の方達,学生・卒業生の皆さんには心から感謝申し上げます.様々な思い出はありますが,「のんだくれの会」,あれは楽しかったですよ.

 既に多くの人々によって言われていることですが,私達の世代はまさに変化の時代を生きたことになります.生まれたのは戦争中のことです.そして,戦後の混乱期,高度成長期,バブル景気の時代とその崩壊,そして現在と,目まぐるしく変わりました.科学・技術の進展は恐らくすべての個人の想像を超えたと思います.長い日本の歴史の中でも,このような大きな変化を一生の間に体験し得た世代はそれほど多くはないと思います.しかし,この変化が実感できるかというと,個人感覚としてはそうではありません.いつにおいても,常に“今”が全てであり,過去も,また今後も,その瞬間の“現在”がまるで未来永劫に不変であるように感じ,生きてきたような気がしています.それで良かったのか,悪かったのか?

 この間,大学も大きく変わりました.景観はもちろん,研究と教育の推進に関する基本的な考え方にも,大きな変化があったと感じます.たとえば今日では,産学共同は当たり前のことであり,おおいに推奨されています.しかし,わずか2,30年前には少なくとも当然なこととは受け取られず,むしろ学問研究の自主性や自律性,継続性などの観点からそれに疑問を述べる意見のほうが多かったような気がしています.社会・経済の変化が背景にありますが,研究推進の基本的な方向さえ正反対に変わることがあるということです.

 私はこれまで制御工学の分野で仕事をさせていただきましが,この分野においても種々研究の流行がありました.はじめは最適制御理論です.まさに理想の制御を目指すものであり,宇宙開発競争という時代背景もあって,多くの研究者の研究対象となっていました.しかし,理論と実際のギャップは大きく,その克服が困難であったことから,研究者の関心はやがて適応制御やロバスト制御などの他の新しい対象に移っていきました.ところが,ブームが去って30年も経った最近になって,計算法や計算機性能の著しい進展により,再び最適制御論の価値が見直されつつあります.

 さて,このように色々変わりますが,結局力になるのは組織あるいはグループの過去からの実績とその継承,すなわち伝統であると最近つくづく思っています.機械工学の素晴らしい伝統を背景にして、皆様が今後ともこれをますます発展させられますことを心より祈念いたします。

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