会員からの便り

株式会社デンソー

淺野秀夫

昭和 52 年卒業(第 36 回)

数値解析への執念

 自動車用空調機器の次期型開発に長年従事した後、設計工程に数値解析を活用するための計算技術開発部門を設立し、現在に至っています。

 数値解析の最重要課題は計算精度です。ある時、担当製品の性能予測計算において、計測誤差に相当する目標精度に大きく乖離し、種々工夫改良するものの、最後は支配方程式の改良しか残されていない、どう改良するかは、まず実際の現象を把握しなければならないが測定方法がない、と言う状況にありました。

 そこで測定方法を開発した研究機関がないかと文献検索すると、なんと自分の卒業した研究室でした。そのため、卒業以来20年ぶりに研究室を訪れ、恩師藤田先生も出席されて現象解明の共同研究についてご相談するうち、先生から思いがけず、社会人博士課程を勧めていただきました。

 その頃、開発戦略を立案し若手技術者を管理指導しているだけでは、「自分は技術者の端くれとして困難な技術開発に向き合っていないのではないか?」と疑問に感じていた時でもあり、躊躇無く決断し、自分の子供と同じ年齢の学生達と机を並べて毎週1,2日の学生生活が始まりました。初めのうちは輪講や研究での学生や先生の集中力に付いていくのが精一杯でしたが、国内外学会も幾つか経験し、指導教官の新美教授、廣田准教授、中山さん(当時助手,現中部電力)のお蔭で、学位を授与していただけました。この3年間の日々が、本当に貴重な得がたい経験でした。お世話になった多くの方々に大変感謝しております。

 現在の担当業務の原点は、関数電卓がこの世に出現した頃の、理系学生なら誰しも抱いた大型技術計算機への憧れです。しかし現実の設計現場は、数値解析は全く認知されておらず、憧れだけで通用する世界ではありませんでした。憧れを執念に変えて、数値解析の精度・時間・機能を少しでも実用に近づけるべく孤軍奮闘しています。今後も、一技術者の目線で、努力し続けたいと考えています。

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