停年・退職の先生のお言葉

田中 啓介 先生

平成19年3月機械理工学専攻を定年退職

定年の挨拶

 今年3月、名古屋大学を定年退職いたしました.1991年に京都大学から赴任してきたときには名古屋は全く未知で、やっていけるのか大変不安だったのを思いだします。製造業が盛んなこの地区の機械材料強度学の拠点となることを目指して研究室づくりを始めました。当時、研究室には設備がほとんどなく、まず実験装置を整備することから始めました。研究室づくりの3要素として、「アイディア」「人材」「資金」を重視しました。

 京大の頃から、材料強度のなかでも材料の疲労や破壊の問題に取り組んできました。そもそもこの研究を始めた理由は、金属疲労は重要であるにもかかわらず、学部の講義で最も分かり難くかつ学問的でなかったことがきっかけで、これに科学的な筋道をつけたいというのが動機でした。博士課程のときには、細束X線による疲労の研究を行いました。また京大の助手・助教授時代は、破壊力学およびマイクロメカニックスを中心とした力学解析に主力を注ぎました。名大では、この疲労の力学を設計に応用できるまでに体系化して科学的な筋道をつけること、X線法を主体とした非破壊応力計測法を新材料構造に展開すること、さらに新分野の開発などに主力を注ぎました。2003年に主催した実験力学の国際会議では、400名以上の参加者を得て大成功であり、最も印象に残っています。

 1998年から2004年までの7年間に主任を4回、学科長を3回務めさせていただきました。つまり隔年ごとに主任をしたことになります。この間に2号館への移転、COE、独立法人化などがありました.主任をしていて心を砕いたことは、各研究室のエネルギを、利害の衝突をさせずに、ある方向の流れを作り出せるかという点でした。いろいろ考えて仕掛けましたが、成功したのも成功しなかったのも半半程度でした。この間には、人間の行動の力学さらに集団としての行動の力学について大いに学びました。

 今年の4月から名城大学に勤務しています。若い学生から新鮮な刺激を受けながら研究を続けています。定年後の生活で必要なものは、「気力」、「知力」、「体力」の3力(さんりき)と言われています。また、今までできなかったことも定年後に始めています。料理教室にかよいだしたのもその1つです。初心に戻って研究の楽しさを味わいながら、人間の生き方について考えていきたいと思います。

 最後になりましたが、名古屋大学在職中の16年間、自由に研究活動をやらせて頂いて、おかげさまで初期の目的をある程度は達成できたのではないかと考えています。心から感謝いたします。

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