平成20年度 東山会会報

特別寄稿


太田 博

昭和32年卒業(第16回)

東山会の歴史の断片

 東山会が設立された昭和25年4月30日から、すでに58年余を経過している。まず、機械学科第1回生(昭和17年9月卒業)が中心となって工学部同窓会を立ち上げようとしたが、他学科の卒業生との歩調がそろわず、ひとまず一番最初に機械学科同窓会(東山会)が創設された。その後、二葉会(電気)、応化会、共晶会(金属)がスタートした。

 さて、東山会の理事の任期は2年で、重任を妨げないことになっている。東山会と私との関わりは第5期(昭和33・34年度)の白戸会計理事の補佐がはじまりで、引き続き第6〜7期(35・36〜37・38)の会計理事、第10期(43・44)と第13期(49・50)の庶務理事、第14期(51・52)の編集理事、第21〜22期(平成2・3〜4・5年度)の副会長など色々と貴重な経験をさせていただいた(1)。先輩の理事の先生から「機械学会東海支部と東山会の仕事は機械学科の公務だ」と言われたことを肝(きも)に銘じ、精一杯やってきました。

(1)生源寺順会長  第1回卒業生から見ても生源寺 順(しょうげんじ・かず)会長は格別な存在であった。東山会会長を第1期(昭和25・26年度)からお亡くなりになる昭和41年12月13日(享年79歳)の第9期(41・42)まで長い間お願いすることになった。生源寺会長の跡は、学外の理事が会長に、学内の理事が副会長になることが前例となってきた。

 生源寺会長は明治20年3月15日生まれで、明治44年7月に東大を卒業され、大正元年九州大学講師、大正7年教授、昭和8〜11年工学部長、昭和15年4月に名大教授と初代理工学部長、理工学部の分離で工学部長を昭和24年8月までなされ、昭和30年3月にご停年となりました。私も時々お目にかかったことがありますが、長身で直立の姿勢には威厳がありました。噂によれば生源寺会長の岳父は、明治15年に講道館柔道を創設された嘉納治五郎(1860〜1938)さんとのことで、なるほどと納得しました。また、機械学科の授業科目が九州大学機械工学科の授業科目と類似点が多いことに気付きましたが、九州大学の良い伝統が名大に引き継がれていることを実感しました。

(2)学徒動員と学徒出陣(2)  太平洋戦争の後半、昭和19年の「学徒勤労令」により中学(旧制)以上に強制的な勤労動員がなされ、工学部でも第3回生〜第5回生は学徒動員されている。また、昭和18年に法文科系の徴兵猶予が停止され学徒出陣がはじまったことは知られているが、徴兵猶予された理工科系でも一部の学生が入隊させられている(2)。第1回入学生の吉松氏、第2回の市川・齋藤氏、第3回の菅沼・川浪・山本・亀田氏の計7名です。また、第4回の金子氏は自ら志願して軍隊に入られ特攻隊員として亡くなられております。唯一、卒業名簿で見つけた第5回卒業生の吉松茂氏(大分県中津市)に電話してみましたら、「兵隊で人生の軌道がそれたため、なかなか元に戻るのに苦労した。やっと4年おくれて卒業できた。」と、その苦労の一端を話して下さった。「継続は力なり」を強く感じました。

(3)名大創立五十周年記念事業・工学部記念講演会(豊田講堂)  名大創立五十周年に関連し工学部記念講演会を平成元年11月12日(日)に行うことが決まりました。講師には全学記念講演会の講師8名を上回る方に講演を依頼したいと色々議論した結果、東山会第6回生の尾崎正直氏「これからの科学技術 過去・現在・未来」と二葉会第9回生の森政弘氏「これからの物観」になりました。尾崎氏は元朝日新聞記者で昭和24年入社早々、湯川秀樹氏がノーベル物理学賞を授けられた。朝日新聞社内に中間子のわかる記者は一人もいなく、尾崎氏が抜擢されて湯川氏の取材に成功したそうです。高浜先生から、尾崎さんは失恋して独身主義者だといわれたが、御自宅〜電話した折に最初に出た方に「奥様ですか」とお聞きしたら「そうです」と答えられ、ほっとしたことを思い出します。現在は科学技術ジャーナリストです。森氏は東工大名誉教授で、(株)自在研究所 代表取締役社長です。講演後に、聴講した卒業生の方々から、「われわれの先輩にこんな立派な方がおられることを知りませんでした。」と声をかけられました。

(4)東山会総会と機械工学教室史誌(2)  同窓会の使命は名簿発行と懇親会の開催です。従来の東山会の懇親会は、出席者が40〜80名で、同級生が2、3名程度では淋しい。二葉会の懇親会は常時150〜250名ぐらいと聞いていたので、二葉会の猿まねで平成10年1月4日、同級生と会社の単位で出席を促すことにし、名古屋駅西のニュー名鉄グランドホテルで新年会を開くことにした。さらに創立以来58年間も発行されていない「機械工学教室の歴史」をまとめ、それに「卒業生の思い出」を掲載する機械工学教室史誌(昭和15年〜平成10年)(2)を出席者に無料で配布することを決めた。平成9年8月1日の教室史誌編纂委員会を経て、8月21日の教室会議で冊子の構成の承認が得られ、ただちに原稿依頼を行い、原稿締切り日を9月20日に設定した。執筆に残された時間はほとんどないのに、山下博史先生、北栄輔先生をはじめ委員の方々には献身的な働きをしていただきました。おかげ様で冊子は年末までに納本され、当日は350名の懇親会の出席がいただけました。感謝・感謝です。東山会の永遠の発展を祈ります。

(平成20年10月22日)


文献
(1) 太田博:東山会25年の歩み,東山会設立25周年記念号(昭和51. 8. 15),pp.6−9.

(2) 機械工学教室史誌編纂委員会(委員長 太田博):名古屋大学 機械工学教室史誌(昭和15年〜平成10年)(平成10.1.4),122p.

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