特別寄稿
村上 澄男 昭和34年卒業(第18回) |
卒業50周年記念祝賀会 「東山へ帰る日」に寄せて
−創設の経緯と託された役割−
第50回名大祭開催中の平成21年6月5日に,東山会役員の皆様ならびに機械系専攻の先生方のご尽力により,第17回生(昭和33年3月卒業)と第18回生(昭和34年3月卒業)を対象に,第7回「東山へ帰る日」が開催されました.当該年次の卒業生の一人としては,卒業後半世紀の間に,わが国の基幹大学としてだけではなく,世界の先導的大学として名実ともに輝かしい発展をとげた母校の威容に触れるとともに,懐かしい朋友との歓談の機会を与えていただき,深く感謝しております.
このたび東山会理事会からのご要請により,10年余り前にその設立に私自身が関与する機会に恵まれた「東山へ帰る日」の創設の経緯と,大学運営環境の激変した現在からみたこの設立構想の先見性,ならびに期待される役割の大きさについての所感を述べさせていただきます.
大学の役割は主に,教育,研究,ならびに社会への知的貢献にあるといわれております.そしてこのような役割についての大学の責任は多方面に及びます.現在という視点で捉えれば,教育機関としての学生に対する責任,人材養成ならびに研究機関としての広範な社会への責任があります.このほかに忘れてはならないのが,過去および未来に対する責任,つまりその卒業生ならびに将来その大学で学ぶであろう若人に対する重大な責任であります.このことは,2008年の日
本人ノーベル賞受賞者4名のうちの3名が名古屋大学関係者であったことが,約10万人(累計)の名古屋大学卒業者と,学問に関心を抱くわが国の若い人達にどれだけ大きな喜び,誇りそして希望を与えてくれたことか,あるいは与えるであろうかを思えばよく分かります.
東山会における卒業50周年記念祝賀会「東山へ帰る日」の創設と,平成9年6月の第1回「東山へ帰る日」開催の経緯は,すでに平成8年度東山会会報 特別寄稿『五十年目に東山へ帰る日を』(青田義郎氏,第1回生,昭和17年卒業),ならびに平成9年度同会報 『第1回「東山へ帰る日」実施の報告』(村上澄男)に詳しく記されております.特に青田氏のご寄稿は,戦時中の暗く,不安に満ちた世相の中にもかかわらず,本学で学ばれた短くも燦然たる青春の日々の回想と,その母校に対する生涯変わらない望郷と敬愛の念を切々と記しておられ,読む人は心を打たれます.これまでに隔年の開催で7回を数えた「東山へ帰る日」は,第1回生の皆様方,わけても前記の青田氏ならびに同第1回生平野逸朗氏の熱心なご提案と格別のご尽力により実現しました.そして,その折に東山会に寄せられたこの青田氏,平野氏のご提案の中では,当時は欧米の大学や日本のごく一部の私立大学で実施されていたに過ぎない大学の「ホームカミングデイ」の意義と,大学運営戦略上のその役割も構想されており,ご提案の先見性は特筆すべきでありました.
卒業50周年記念祝賀会創設のご提案を頂いた平成8年から今日に至るまでの10年余の間に,日本の大学の運営環境は激変し,大学間の大競争時代に入りました.この原因としては主に,平成16年4月からの国立大学の法人化,その数年前から顕在化した18歳人口の連続的減少,日本の基幹大学が遭遇している国際競争の熾烈化があげられます.
国立大学の法人化に伴い,大学の主要収入源である運営交付金が毎年1%ずつ削減され,さらに平成22年度からは交付金配分額に大学の経営努力や教育・研究成果がより大きく反映されようとしております.大学予算の削減は,大学教育の充実・向上だけではなく,魅力ある教育環境の整備の大きな障害になります.これは18歳人口の減少とあいまって,優秀な学生の獲得をいっそう困難にし,そのための競争を激烈にしております.さらにこれは,研究重点大学としては必須の,世界を先導する独創的研究の展開,才能豊かで意欲的な大学院博士後期課程学生の確保・養成や,優秀な留学生・外国人教員獲得の障害となり,世界の有力大学との国際競争も困難にしております.このように厳しい運営環境の中,基幹大学としての国内ならびに国際的地位を維持し続け,同時に多方面から求められる大学の責任を全うするためには,国庫補助金と大学の自助努力だけには限界があります.
アメリカの主要大学では伝統的に,企業,同窓会,卒業生からの多額の寄付金,ならびに寄付基金を基にした運用益によってその活動と運営が支えられております.このため最近では,日本の大学でも,私立大学を中心として,寄付金等の外部資金が重要な安定的財源として期待されるようになりました.国立大学,特に旧帝国大学でも,最近では寄付金獲得のために懸命な努力が払われております.例えば,過去2年間の寄付金収益は,第1位東京大学,第2位大阪大学,第3位東北大学となっております.
名古屋大学では,平成14年10月に全学同窓会が発足し,さらに平成17年からは「名古屋大学ホームカミングデイ」が開催されるようになりました.これは,名古屋大学の教育・研究環境とその活動の状況,成果等を卒業生,元職員等の大学関係者,ならびに地域の人々に公開するととも
に,名古屋大学基金への寄付をはじめとして,大学運営に対する多方面の協力・支援を呼びかけることも一つの重要な目的としております.
東山会主催のホームカミングデイ「東山へ帰る日」は,「名古屋大学ホームカミングデイ」よりも約10年前に創設されております.そしてこの「東山へ帰る日」は全学の「ホームカミングデイ」の設立趣旨を先取りするものであって,その創設のご提案と実施へのご協力を惜しまれなかった青田,平野両氏,ならびに第1回生の皆様方のご尽力と先見性に厚く御礼申し上げます.この「一回生の贈り物」(青田氏)が将来とも益々盛大に開催され,ご出席の皆様には,この機械系学科に学んだ青春の日々の回想の縁とし,またこの大学の輝かしい発展の姿に親しんでいただく機会となれば幸いであります.そしてこれが,厳しい環境の中で多方面からの期待を担ってご活躍の現職教員各位へは励ましとご助言をお聞かせ頂ける機会となり,また学科・専攻・大学運営へはご支援・ご協力のご高配を頂ける機会となればと念じております. (以 上)
第1回「東山へ帰る日」懇親会,ご来賓の春日保男先生と第1回生 (前列右端 青田義郎氏,後列右から2人目 平野逸朗氏) (平成9年6月13日,名古屋大学 ユニバーサルクラブ) |