平成23年度 東山会会報

会員からの便り


North Vernon Industry Corp.
Director of Maintenance

木村 隆

昭和 46 年卒業(第30回)

アメリカ雑感

先輩方の定年であった55歳を機に、米国の小さな鋳物会社に転職することを決意した。今まで勤めていた鉄鋼会社に不満があった訳ではないが、振り出しに戻って自分自身を見つめなおし、仕事のあり方の基本に戻ってみようと思ったからであったが、名古屋大学のそれも機械工学科の1年後輩でその会社に就職していたM氏から声を掛けられたのがきっかけだった。

米国での勤務は2度目ではあったが、今回は現地採用扱いで住居など全て自分で賄わなければならなかった。インディアナ州の片田舎にある日系の中小企業で、日系最大手のT社を筆頭に日系および米国の主要フォークリフトメーカーに鋳物の錘(カウンターウエート)を年間3万トンほど納めていたが、注文が右肩上がりに増加していく最中で2直操業では間に合わず、M氏の担当で第二工場の建設も始まっていた。

担当した業務はM氏が片手間にやっていた設備保全で、前の会社で20年以上も携わってきており戸惑うようなことは無かった。しかし、老朽しかかった誘導溶解炉が度々ダウンし、電気系の故障の場合は、部下の監督者や作業員に頼るしか無かった。

最大の競争相手は中国であったが、品質や納期の問題に加え中国経済の発展とともに価格が徐々に高騰し始め、客先の中国離れが始まっていた。注文はさらに増加し、第二工場稼動の一年後、工場はほぼフル操業、従業員も倍増となり、年間9万トンの生産となった。そこで南部のアラバマ州に子会社を設立し、新工場を建設することになったが、建設に着手した頃から米国の経済に変化が起き始め、そしてあの忌まわしきリーマンショックによる大不況に陥った。稼動を始めて一年を過ぎたばかりの新工場は閉鎖を余儀なくされ、従業員の大半は解雇となり、公私ともに大変お世話になったM氏も退職の道を選んだ。

現在は不況ながらも立ち直りつつあり、更なる中国製品の価格高騰も相俟って注文も年10万トンを超える見通しとなり、アラバマの工場も再稼動を始めた。こうなると一番の問題は作業員の定着であるが、新規に採用しても仮雇用期間の90日以内に半分以上が辞めてしまい、せっかくの教育、訓練が無駄に終わってしまう事であり、これが米国の労働市場の実情である。

前回の駐在時は自動車や家電などの日本製品が市場を席巻し、高値の花であったが、今は中国製の日常品だけでなく、韓国製の自動車や家電製品の台頭が目立ち、デザイン面でも日本製が見劣りして見えるのは私だけであろうか?最高水準を何度も更新しながら高騰し続ける未曾有の“円高“により、日本メーカーは更なるコスト低減を余儀なくされ、部品の共通化などの要求からデザイン面が犠牲なっているように感じられる。

私はまだ結論を見出せていないが、日本の会社も物づくりの原点に立ち返って見つめなおし、本当に売れる(世界が要求する)商品や、従業員や技術者にとって造りがいのある製品、製造方法とは何かを考え直す時期では無いだろうか。このような時期であるからこそ工学系の大学に求められる物が何であるか考える事が最重要と思う今日この頃である。

米国の地より、東山会と会員の皆様の更なる御発展をお祈りします

トップ > H23 会報 > 会員からの便り