平成26年度 東山会会報

会員からの便り


新日鐵住金株式会社
鋼管技術部

平野 昌宏

昭和 49 年卒業(第 33 回)


  

会社生活を始めて40年が経過しました。
 住友金属に入社以来、今日までずっと継目無油井管の製造及び商品技術に携わってきました。油井管は原油やガスを生産するための鋼管で、近年、原油・ガス掘削環境の過酷化により高温高圧に耐える高性能な特殊継手の需要が高まっています。従来は日本で捻子を切り完成品出荷していましたが、各国で自国経済保護のための現地捻子切化の動きが活発になり継手加工拠点のグローバル化が進められてきました。私は米国、シンガポール、中国に駐在した際に継手加工拠点での技術指導に携わりました。海外でも日本と同等の品質を提供するのがミッションです。
 海外の工場経営で強く感じるのは物づくりに対する文化の違いと日本の製造・品質管理手法を定着させることの難しさでした。日本の物づくりの基本は”現場・現物主義”です。ところが海外では一様にエンジニアは現場に出ずに現場から送られてくるデータや技術資料を元にオフィスで判断することが有るべき姿と認識されています。日本人エンジニアが現場で手を油まみれにして指導していると「一体、何をしているんだ?変な奴だ!」という眼で見られます。それはブルー・カラーがやるべき仕事だという認識です。残念ながら日本の常識は世界の非常識のようです。文化が違いますので頭ごなしに日本のやり方を指示しても反発を招くだけでうまく行きません。赴任したての時期に社員はこの人は一体何が出来る人なのかという厳しい眼で見ます。最初の段階で如何に社員の気持ちを掴むのかが成否の分かれ目です。中国の工場に赴任したときに品質問題で大量の製品が長期間出荷停止になっていました。赴任後一週間でこの問題を解決してからは社員の私を見る眼ががらりと変わり、真摯に私のアドバイスに耳を傾けるようになり操業・品質改善活動が上手く廻り始めました。
 もう一つの大きな問題は社員の定着率です。海外では契約期間は通常3年程度で契約期限が近づくと多くの社員がキャリア・パスや高収入を求めて転職してゆきます。特にコアになる社員が一気に数人転職するとそれまでの苦労が振り出しに戻ってしまいます。日本の高い技術レベルは日本特有の終身雇用制度に負うところが大きかったと思います。ただ近年、日本の雇用環境は大きく変化しており日本においてもLoyaltyの維持が難しい時代になってきました。これからは如何に日本の強みを維持してゆくのかが喫緊の課題と思われます。
 中国に赴任して一年ほど過ぎた頃に社員と客先の接待をしたことが有りました。10時過ぎにお開きとなり店を出ようとしたら品質保証課長、工場長ら数人が「今夜製造する初製造品の品質を見極めたいので今から工場に戻りたいのですが」と私に自発的に申し出てきました。その夜、彼らは明け方まで製造に立ち会ってくれました。彼らの造り込みに対する意気込みに驚くとともに一年間の苦労が実を結んだと思えた瞬間でした。  国内の現場だけでなく、海外の工場経営や技術指導を体験できたことを喜ばしく思っています。特に立ち上がって間もない工場を日本の物づくりの”色”に染めてゆくのはなかなか楽しい経験でした。
 東山会の皆様のご健康と益々のご活躍をお祈り申し上げます。

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